2024/08/08
安心R住宅連載コラム 第九回(最終回)
#住まい #メンテナンス #リフォーム #リノベーション #省エネ
寄稿者
中山 登志朗
株式会社LIFULL
LIFULL HOME'S総合研究所
副所長 チーフアナリスト
LIFULL HOME’S総研、兼安心R住宅認定団体「安心ストック住宅推進協議会」理事の中山です。
今回で安心R住宅に関連するコラムが最終回となります。安心R住宅の特性やその目的、メリットや課題など様々な情報をお届けしましたが、また折に触れて安心R住宅の最新情報をお届けしたいと思います。
さて、今回は前回に続いて「安心R住宅調査報告書」の項目について、特にチェックしていただきたい10のポイントを解説します。
目次
1.耐震性
2.既存住宅売買瑕疵保険の検査基準への適合
3.共用部分の管理
4.リフォーム工事の実施状況
5.当該住宅に関する書類の保存状況等の情報
6.建築時の情報
7.維持保全の状況に係る情報
8.保険又は保証に係る情報
9.省エネルギーに係る情報
10.共用部分の管理に係る情報
1.耐震性
建築基準法の耐震基準は1981年6月に改正されていますから(=新耐震基準)、それ以前に着工された住宅は、耐震性能が必ずしも十分ではない可能性が高いです。このため、安心R住宅では「現行の建築基準法の耐震基準に適合するもの、またはこれに準ずるものに適合すること」を要件としています。耐震性は日本で住宅を購入する上で欠かせない条件の1つです。着工年月がいつなのかは必ずチェックして下さい。
「これに準ずるもの」とは、1981年5月31日以前に着工された住宅でも、耐震診断を受けて安全性が確認された住宅という意味です。
2.既存住宅売買瑕疵保険の検査基準への適合
既存(中古)住宅は、新築時の品質や性能の違いだけではなく、竣工後の維持管理や経年劣化の状況も違いますから、物件ごとに差があります。安心R住宅では「安心して物件を購入できるように構造上の不具合および雨漏りが認められず、既存住宅売買瑕疵保険の検査基準に適合していること」を要件としています。
この要件を満たすために、保険法人の登録検査事業者または保険法人によるインスペクション(建物状況調査等)を実施しますので、どの事業者がいつ調査しているのか確認してください。
3.共用部分の管理
安心R住宅は戸建だけではなくマンションも対象です。分譲マンションは、所有者で構成される管理組合によって適正な管理が行われていることが前提となりますが、安心R住宅では「管理規約および長期修繕計画があること」を要件としています。一般に管理規約も長期修繕計画もないマンションは想定しにくいですが、必ずある前提で有無を確認し、併せてその内容もチェックしておきましょう。詳細については物件の流通を担当する仲介事業者に依頼すればOKです。
4.リフォーム工事の実施状況
中古住宅の「汚い」イメージを払拭するため、安心R住宅では登録事業者団体ごとに「住宅リフォーム工事の実施判断の基準」を定め、その基準に合ったリフォーム工事が既に実施されていること、もしくはその基準に合ったリフォーム工事の提案書が付いていること、を要件としています。ただし、リフォーム実施判断基準は登録団体ごとに異なりますので、調査書に記載されている登録団体のウェブサイトでその基準を確認する必要があります。
5.当該住宅に関する書類の保存状況等の情報
「7. 当該住宅に関する書類の保存状況等」において「有」となっていれば、書面が保存されているということですから、された項目については、物件の流通を担当する仲介事業者に依頼すると詳しい情報が開示・提供されます。購入について真剣に検討する段階になったら必ず確認して、詳細を把握してください。
6.建築時の情報
住宅を建築した時の書面のことです。具体的には、建築確認に必要な書類、各種認定の申請書等、適法性や認定等に関する様々な書類が作成されていますから、安心R住宅として購入した後に、増改築やリフォーム、さらには適切な維持管理を行うためにも、新築時の情報が役に立ちます。是非確認してください。
7.維持保全の状況に係る情報
安心R住宅を購入後、その品質を維持するためには、定期的な点検やメンテナンスなどが欠かせません。6の建築時の情報に加えて、インスペクション(建物状況調査)と過去の維持保全に関する情報に基づいてリフォームやメンテナンスを検討すれば、効率的に維持管理や修繕・リフォームが実施可能になります。これもこの住宅の購入を真剣に検討する段階で必ずチェックしましょう。
8.保険又は保証に係る情報
安心R住宅を購入後、構造耐力上主要な部分に不具合や雨漏りが発生して、多額の補修費用が掛かった場合、保険や保証を活用することで、必要な修補を受けることができます。安心R住宅については瑕疵保険への加入が可能ですからトラブルを修補するのに必要なコストが金銭で提供されるうえ、仲介会社が独自に瑕疵保証をしていれば、部位や設備の交換などにも応じてもらえますから安心です。
9.省エネルギーに係る情報
2024年4月から、省エネ性能表示制度がスタートしました。現段階では新築住宅については“努力義務”、中古住宅については“推奨”レベルですので、ラベル表示に対応している物件は決して多くはありませんが、2025年4月からは、「改正建築物省エネ法」の施行によって、全ての新築建築物(オフィスビルや倉庫なども対象です)に省エネ基準適合義務が課されるようになります。ユーザーの関心も徐々に高まっている状況ですから、この項目について特段記載がない場合は、必ず当該物件の省エネ性能について口頭で確認しましょう。併せて、年間の光熱費の目安なども確認しておくと、物件の本体価格だけでなく、イニシャルコストもイメージできます。
10.共用部分の管理に係る情報
マンションに関する「3.共用部分の管理」は、管理規約および長期修繕計画の確認に留まりますが、ここではそれらに加えて、修繕積立金の積み立て状況、および既に実施していれば共用部分の大規模修繕の実施記録の有無を確認します。長期修繕計画に基づいて修繕積立金が計画的に積み立てられているか、積立金に大きな不足が生じていないかなどをチェックします。こちらは専門知識が必要ですから、インスペクターに読み解いてもらうと良いでしょう。
以上でコラムの連載を一旦終了します。
このコラムが皆さんの安心R住宅購入に向けての参考になれば、また安心R住宅として売却することの意義を感じていただければ、これほど嬉しいことはありません。
株式会社LIFULL
LIFULL HOME'S総合研究所
副所長 チーフアナリスト
出版社を経て1998年よりシンクタンクにて不動産マーケット分析、知見提供業務を担当。不動産市況分析の専門家としてテレビ、新聞、雑誌、ウェブサイトなどメディアへのコメント提供、寄稿、出演を行うほか、年間数多くの不動産市況セミナーで講演。
2014年9月にHOME'S総研(現:LIFULL HOME'S総研)副所長に就任。国土交通省、経済産業省、東京都ほかの審議会委員などを歴任。(一社)安心ストック住宅推進協会理事。