2023/02/01
安心R住宅連載コラム 第一回
#住まい #メンテナンス
寄稿者
中山 登志朗
株式会社LIFULL
LIFULL HOME'S総合研究所
副所長 チーフアナリスト
LIFULL HOME'S総研の中山です。
簡単な自己紹介をすると、私は不動産市況を分析・研究し、広く一般にデータや知見を提供しており、また一般社団法人「安心ストック住宅推進協議会」の理事でもあります。この団体は、2021年3月に国(国土交通省)の認可を得て、安心R住宅の認定を実施するほか、安心R住宅の運用全般およびインスペクション(建物状況調査:建物の健康診断です)に関する知見の提供などを行なっています。
この度、LIFULL HOME'S OWNERSを通じて、安心R住宅の意義や制度内容、実際の活用の仕方やポイントなどについて、皆さんにご説明の機会をいただけることになりました。
第一回は、安心R住宅そのものがまだ皆さんにそれほど知られた存在ではないので、この住宅の特性や設置された目的、そして安心R住宅に認定されるための基本的な条件、について解説したいと思います。
安心R住宅とは?
安心R住宅とは、一言でいえば“誰もが安心して生活することができる既存(中古)住宅”のことで、2018年4月から制度がスタートしており、2021年度終了時点で累計5,000戸超の認定があります。
安心R住宅についての国の定義は、「耐震性があり、専門家の検査の結果、構造上の不具合・雨漏りが認められない住宅であって、リフォーム実施済等の既存住宅」です。よくわかりませんよね(笑)。
具体的には、
①耐震性があり:1981年6月1日に改定された現在の耐震基準(いわゆる新耐震基準)を満たしている
②専門家の検査の結果、構造上の不具合・雨漏りが認められない:インスペクションを実施し、構造上の不具合および雨漏りが認められず、買主の求めに応じて既存住宅売買瑕疵保険を締結できる用意がある
③リフォーム実施済等:リフォーム実施済みまたはリフォーム提案が用意されている
④既存住宅:新築住宅ではなく中古住宅で、(あれば)点検記録などの保管状況についても情報提供が行われる、ことなどが認定の基本的な条件です。
つまり、建築士など有資格者によるインスペクションを受けて構造上の欠陥や雨漏りがないことが確認されていて、さらにリフォームするかリフォームの提案書(もちろん見積書付き)が用意されており、(過去実施されていれば)その住宅の修繕や点検の記録についても情報提供を受けられる中古住宅のことです。
中古住宅の現状
中古住宅は、永らく取引手法として“現況有姿”という売買が行われています。 これは“現在あるがままの状態で(いろいろと傷んでいるところもあるであろうことを承知の上、それを前提とした価格で)購入する”という意味です。決して少なくないコストを負担して住宅を購入するのに、アタリハズレがありそうな一種の賭けのような買い方をするわけですが、実際に中古住宅売買では、引き渡し後に見つかった瑕疵(建物の不具合)を巡って売主、買主、そして仲介を担った不動産会社間でトラブルになることも少なくありません。 やはり中古住宅は売主の責任が問いにくいから、多少高くてもトラブルの可能性が低い新築住宅を購入したいと考えるユーザーが多いのも納得できる話です。
こういったこれまでの中古住宅に対する“不安・汚い・わからない”といった不信感を払拭し、安心して快適に生活することができる中古住宅が数多く流通する市場を作ろう、というのが国の掲げた目標です。 背景には、少子化・高齢化に伴って空き家(2020年時点で推計800万戸)がどんどん増加し、これまでの古くなったら建て替えれば良いといった住宅ストックに対する考え方が成り立たなくなってきたことが挙げられます。“フローからストックへ”とはよく聞く言葉ですが、住宅においてもフロー=新築住宅からストック=中古住宅に目を向け、良質な住宅をできるだけ永く使うという発想が求められているのです。 また、リフォームによって省エネ・断熱性能を高めつつ住宅を長期に渡って活用することは、温室効果ガスの発生を抑制し、カーボンニュートラルの実現にも一役買うことができます。
安心R住宅の“R”は、Reuse(再活用)、Reform(改良)、そしてRenovation(刷新・修築)から取られています。古くなった住宅は壊すだけではなく、修繕&グレードアップし、安心して快適に長く住もうという考え方が当たり前になる世界観を目指していることが良く理解できるネーミングです。
次回は、より詳しく、安心R住宅の“中身”についてご説明します。 皆さんも是非、安心R住宅が実際にどういったものであるのかをご認識いただき、その条件を満たして次の買主に安心して売ること、もしくは安心R住宅を購入することをご検討ください。
株式会社LIFULL
LIFULL HOME'S総合研究所
副所長 チーフアナリスト
出版社を経て1998年よりシンクタンクにて不動産マーケット分析、知見提供業務を担当。不動産市況分析の専門家としてテレビ、新聞、雑誌、ウェブサイトなどメディアへのコメント提供、寄稿、出演を行うほか、年間数多くの不動産市況セミナーで講演。
2014年9月にHOME'S総研(現:LIFULL HOME'S総研)副所長に就任。国土交通省、経済産業省、東京都ほかの審議会委員などを歴任。(一社)安心ストック住宅推進協会理事。