2024/04/17
安心R住宅連載コラム 第六回（前編）
#住まい #メンテナンス #リフォーム #リノベーション #省エネ
寄稿者
中山 登志朗
株式会社LIFULL
LIFULL HOME'S総合研究所
副所長 チーフアナリスト
LIFULL HOME’S総研、兼安心R住宅認定団体「安心ストック住宅推進協議会」理事の中山です。
今回はいつもの安心R住宅に関連するコラムではなく、数多くの安心R住宅を売買されている不動産会社に安心R住宅を取り扱う意義やその実際についてインタビューしましたので、その内容を2回に渡ってご紹介します。皆さんにもお役に立つ情報が満載ですから、是非最後までお付き合いください。
姫路で安心R住宅の普及を手掛ける
アートランド社長 武本尚さん
近畿圏で2年連続してLIFULL HOME’Sの「買って住みたい街ランキング」第一位に輝いた姫路。その住宅購入希望者の問合せ数が近畿圏で最も多い人気の街、姫路で1993年に創業し、30年以上に渡って住宅販売および流通に精力的に取り組まれてきた株式会社アートランドの武本社長に、安心Ｒ住宅に対する“思い”についていろいろと伺いました。
▲株式会社アートランド 武本社長
武本社長は、戸建住宅とマンションを手掛ける総合デベロッパーで専務取締役まで務められてから1991（平成3）年に独立、姫路にアートランドを設立しました。創業当時から一般的な不動産仲介と分譲マンションの販売代理で業績は順調だったそうですが、一般仲介業務を手掛けていても、売主の意向で急に売買の依頼がキャンセルされたり、物件の状態を調査・検査して買主に情報を渡したりすることは難しく、単に売買を仲介するだけでは、顧客からの信用・信頼を積み上げることはできないと痛感したそうです。
そこで、創業から15年ほど経って、思い切って一般仲介から買取再販、つまり物件を売主から買い取って適切なリフォームを施して買主に引き渡す仲介ビジネス、を手掛けることにしました。買取再販ビジネスに切り替えた理由は、物件を買い取れば自らが売主であり、売主としての責任をきちんと果たして、買主からクレームが出ない物件に安心して住んで欲しいと考えたからだそうです。売主と買主を結び付けて物件を流通させるビジネスも決して簡単ではありませんが、武本社長は「それ以上に顧客からの信頼を得たい、安心できる住宅に住んでもらいたい、という気持ちが強かった」と語ります。
結果的に会社の方向転換は功を奏し、また顧客からの信頼を得られるよう努力を続けた甲斐もあって、顧客から新しい顧客を紹介してもらえるようになったり、社員が取り扱っている物件に対して自信を持って販売できるようになったことが何より嬉しかった、と武本社長は当時を振り返ってくれました。 その後、買取再販事業が軌道に乗り、徐々に取り扱う案件が増えたことでアートランドは買取再販専門の会社に、また別会社で一般仲介を行うように業務を棲み分けて現在に至っています。
アートランドの買取再販物件は
安心R住宅の認定基準を既にクリアしていた！
信用を積み上げていく、と言葉にするのはたやすくても、それを実現することは容易なことではありません。武本社長は、住宅を購入してくれた顧客が何より安心して住めることを最優先し、販売した住宅に何らかの不具合が出ても、原則としてアートランドの負担ですぐに修理・修繕対応するという、他社ではなかなか真似のできない方法で信用を積み上げていきました。
現在のような瑕疵保険がまだなかった時代ですが、武本社長はリフォーム業者にも「前金で半分、完工翌日には残りの半分を支払って、信頼が得られるように」努め、「幸いなことに大きな費用負担が発生するようなことはなかった」と笑顔で話してくれました。それでも基本的にアートランドの費用負担で迅速に修繕するのは、並大抵なことではありません。古くから大阪商人は単純に設けることを目的とせず、顧客が満足して喜んでくれることを優先すると言われますが、その意味で武本社長は“しぶちん”とは程遠い、生粋の大阪商人と言えそうです。
その後、時代がアートランドに追い付いて、瑕疵保険は新築住宅だけでなく中古住宅やリフォーム工事にも適用範囲が広がりました。それまでのリフォームはなるべくコストを抑えて見栄えを良くするだけで、長持ちして安心して住める住宅にはならないので「結果的に信用を得にくくなってしまうが、瑕疵保険が中古住宅にも付帯できるようになって、長い目で見て安心して暮らせるリフォームが可能になったことは大きなメリットだった」と武本社長は言います。顧客も不動産会社も安心できる仕組み、それが瑕疵保険だったのです。
そして、2018（平成30）年から安心R住宅の制度が始まりました。武本社長は安心R住宅の認定基準が公開された時に、アートランドが取り扱っている物件が「ほぼ全て基準をクリアしていることが分かった」ので、「届出て登録さえすれば全部自社の取り扱い物件が安心R住宅になることは、客に安心してもらう上でさらに良いと思った」そうです。制度開始以降、アートランドで取り扱う買取再販物件（年間30戸超）は100％安心R住宅の認定を受けています。
また、安心R住宅の認定条件の1つであるインスペクションも開始当初から利用していたそうですが、長年の付き合いで信頼できるリフォーム業者・工務店と提携して施工し、完工後の自主検査を経てさらに外部の検査も受けてダブルチェックで評価してもらえるのは、ユーザーにも安心して購入してもらえる大変良い仕組みで、「我々も二重に安心が得られるので、社員に安心R住宅の仕様や制度について周知・教育し、自信を持ってお勧めできる物件」として販売できるようになりました。創業当時から感じてきた信用がなかなか得られない悔しさを、安心R住宅制度の活用によって武本社長は払拭することができました。
ユーザーが安心して中古住宅を購入できる仕組みとして始まった安心R住宅ですが、不動産会社にとっても信頼を得る絶好の機会となったのです。
（以下、後編に続く）
安心R住宅連載コラム 第六回（後編）
株式会社LIFULL
LIFULL HOME'S総合研究所
副所長 チーフアナリスト
出版社を経て1998年よりシンクタンクにて不動産マーケット分析、知見提供業務を担当。不動産市況分析の専門家としてテレビ、新聞、雑誌、ウェブサイトなどメディアへのコメント提供、寄稿、出演を行うほか、年間数多くの不動産市況セミナーで講演。
2014年9月にHOME'S総研（現：LIFULL HOME'S総研）副所長に就任。国土交通省、経済産業省、東京都ほかの審議会委員などを歴任。（一社）安心ストック住宅推進協会理事。
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